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九州の地誌その6

九州には火山が多いですね。この熱によって地下水が暖められて温泉となります。もちろん、地中深くのミネラル成分などがとけ込んで、独特の温泉臭と効用をもたらすわけですね。

さあ、ここで問題です。

次の温泉の読み方を答えてください。

指宿 杖立 湯布院 嬉野 人吉 

大丈夫ですね?定番の温泉ばかりなので、読めると思いますし、旅行に行ったらぜひ!という温泉です。では、何県にあって、どの火山と関連が深いか考えてみてください。

う〜む、ちょっとわかりにくいでしょうか?さあ、地図帳でチェックしてみてください。

くどいですが、地理を学習する時には地図帳を常に開いておくことです!

指宿=いぶすき 鹿児島県薩摩半島に南端にありますね。関連が深そうな火山は開聞岳(かいもんだけ)です。きれいな円錐形をしていて、薩摩富士とも呼ばれます。戦時中に特攻隊の最前線基地が知覧(ちらん)にありました。ここで、訓練を受けた若者は人間爆弾となり、帰ることなく敵艦に突っ込んで行ったわけです。訓練と言っても、ほとんどろくな訓練を受けることもなく、すぐに特攻したとのことです。生きて帰ってくることがないことがわかっての、最後の手紙を家族に宛てて書いたものが、知覧の記念館に零戦とともに展示されていますので、一見の価値があります。命の大切さについて考えさせられます。その展示館の中には、開聞岳が大きく描かれています。知覧を飛び立った零戦開聞岳を右に見ながら太平洋に飛び出して行ったのです。その姿が富士山にとても似ていて、いよいよ日本を離れ帰ることがない、と覚悟を決めるポイントだったと言います。

のんびりと、指宿温泉につかるのもよいですが、鹿児島を観光で訪れたときには、ぜひ、開聞岳と知覧の記念館は訪れたいところですね。

 

杖立=つえたて 秘境の湯と呼ぶにふさわしい温泉かもしれません。でも、これが何県ですか?と言われて即答できたら、かなり温泉が好きな方かと思います。地図で見ると、熊本県大分県の県境ギリギリにあります。温泉のパンフでは熊本県小国町となっています。九重連山と関係が深そうです。JRでは日田駅から1時間ほどバスで南下しますが、本数が少なく終点間近になると、本当に深い山の中の1本道という感じです。この静かなバス停で今度はJR阿蘇駅に向かうバスに乗り換えますが、これも本数が少なく、かつお互いのバスは連絡しているわけではないのですね。それが、この地が秘境たる所以かもしれません。

 

湯布院=ふゆいん 言わずと知れた大分県の温泉ですね。国際的にも名が知れており、多くの外国人が訪れます。もちろん、九重連山と関係ありそうです。湯布院のすぐ西側が九州の分水嶺です。分水嶺とは雨の水がどちら側の海に流れるかを決めるラインです。高い山の尾根線が境目になる場合がほとんどです。湯布院は、その分水嶺のすぐ東側にあるので、この温泉水は瀬戸内海に流れ込みます。温泉のすぐ西側の峰が分水嶺なので、そこから流れる川が玖珠(くす)川で、これはやがて九州で最も長い河川「筑後川」となり、有明海に注ぎます。

 

嬉野=うれしの 佐賀県にあります。このあたりの県境は地元の人間でもなければ、長崎県と思ってしまいそうなところです。近くに火山がありませんので、関係はわかりません。雲仙岳と関連があるかもしれませんね。ここから長崎県側に出ると、そこは大村湾です。西海橋のある針尾で外海とつながっていますが、ほとんど湖と言っていいくらいですね。その向こうは西彼杵半島です。読めますか?難しい読み方だと思います。「にしそのぎはんとう」ですね。

 

人吉=ひとよし 熊本県にあります。球磨川(くまがわ)が流れている盆地の温泉ですね。ここから南に1つ峠を越えるとえびの高原で、ここは鹿児島県です。火山としては霧島が近いので、これと関係あるかもしれません。

 

さて、九州の温泉を眺めながら考えると、かなり山深いところにあることがわかると思います。九州山地のど真ん中は、本当に山深く道路での行き違いも怖くなるようなところも多々あります。

そんな中で2つの集落を確認しておきましょう。熊本県の人吉からさらに東に球磨川の上流に向かいます。第3セクターの球磨川鉄道がありますが、その終点「湯前」ここから北側にある山を見ると、地図には「五家荘(ごかのしょう)」とあります。これが1つめ。次にこの五家荘から東側に県境を越えると「椎葉」というところがあります。この2つ、とにかく山深いところです。

地理の学習では、これは「隠田百姓村(おんでんひゃくしょうそん)」と言います。漢字が書けませんよ!「穏やかな」漢字ではありません!「隠す」のですから。さて、いったいどんな村なのでしょうか?

時は12世紀の終わり、1185年のこと。九州と本州の関門海峡で源氏と平家の闘いがありました。「壇ノ浦の戦い」ですね。ここで、瀬戸内海を西に逃げてきた平家は源氏に挟み撃ちにされて、安徳天皇とともに海の藻くずと消え去ったのでした。

その前には、屋島の戦いもありあましたが、平家側の武士でも落ち武者が発生します。そうやって源氏の追っ手を逃げて山の中にひっそりと暮らした、それが隠田百姓村なのです。

歴史の流れからして、深い山の中でなければならないわけですね。九州には「平」という漢字の入った苗字を多々目にしますが、それはもしかしたら平家の関係者かもしれませんね。

さて、九州がこれだけ山深いということがわかりましたが、山深いとは、自然環境的に言うと、どのような状態だと言うことが出来るでしょうか?

あまり深く考えたことがないかもしれませんが、地理の学習には自然環境は常に意識しておかなければなりませんね。

山深いとは、つまり谷が深く刻まれているということです。谷底から見上げると、山がそびえ立つように見えるわけです。当たり前といえばそうなのですが、では改めて、どうして谷が深く刻まれるのでしょうか?ということです。

九州は火山が多くあります。火山活動が活発であるということは、地殻変動で地盤が隆起している、ということになります。こうなると、雨による浸食力が一段と増します。浸食力は流速に対して三乗に比例して増すと言われています。つまり、山が高くなればなるほど、川の流れは激しくなるので、地表がどんどん削られていくというわけです。ということは、谷が深く刻まれていきます。九州山地はそもそも雨量が多いですから、この活動は顕著です。

これが、隠田百姓村の成り立ちと関係していると言えなくもありません。ここで、水量と谷筋の深さから水力発電について見ておきましょう。

九州で最も発電量の多い水力発電所は小丸川発電所です。ちょっと聞かない名前かも知れませんね。

九州山地から日向灘に向けて何本もの河川が流れていますが、ちょうど宮崎市と日向市の真ん中くらいを流れているのが、小丸川です。椎葉村からの川とひつ筋違いの谷を流れる川です。

九州の規模の大きさを感じさせられます。

 

ここで一句

 

濁り湯で 穏やかならず 隠したり

 

ではでは