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アメリカ合衆国の地誌その2

アメリカ合衆国とカナダの国境に関する問題です。

アメリカ合衆国からカナダに行くためには、基本的に北に行かなければなりませんが、ある場所に限って南に行かなければ、カナダに入国することが出来ません。その場所はどこでしょか?アメリカ側とカナダ側の都市名を答えてください。

むむっ。「日本の最南端の都道府県を答えなさい。」答え、沖縄県。ブーッ!東京都の沖ノ鳥島でした!みたいな、常識を覆すタイプの問題ですね。

うーむ。

ということで、答えはアメリカのデトロイト、カナダのウインザーです。

えっ?デトロイトって、あの車で有名な?とピンと来た人は、アメリカの地誌が少しわかっている人ですね。よしよし。

地図で、その場所を探してみてください。東西方向に見えなくもありませんが、拡大してみれば、南北方向になります。

 

さて、アメリカ合衆国の地図を見ると、右上のあたりに5つの大きな湖を見ることができます。もちろん、五大湖です。しかし、受験生は五大湖だけでなく、その1つ1つの名前を言えなければなりませんね。

確認しておきましょう。一番奥、西側にあるのがスペリオル湖です。面積は五大湖中最大で82100㎢で、北海道とほぼ同じです。そこからスーセントメリー運河を抜けてつながっているので、ヒューロン湖です。これにつながっているのが、ナスのような格好をしたミシガン湖です。ヒューロン湖ミシガン湖の面積はほぼ同じで、九州と四国を合わせたくらいです。ヒューロン湖から例のデトロイトを通ってエリー湖、さらにナイアガラの滝があって、東側のオンタリオ湖につながります。大きさはエリー湖が25740㎢で近畿地方と同じくらい、オンタリオ湖が18960㎢で四国とほぼ同じ大きさです。このエリー湖オンタリオ湖の標高差は100mあります。

細かい数字が多数出てきてめんどくさいですね。テスト対策的には、名前と位置の順番、を覚えておきましょう。西から東に向かって面積はだんだん小さくなっていくので、ここは覚えやすいですね。

さて困ったのは、5つの湖のうち、100mの標高差のあるエリー湖オンタリオ湖の間は船で通れないことです。でも、心配無用。ここにはカナダ側にウェランド運河があります。この標高差を越えるために閘門を設け、船を持ち上げながら通過をします。つまり構造はパナマ運河と同じということですね。初代の運河の完成が、かなり早い時期の1833年です。

スエズ運河が1869年、パナマ運河が1914年と考えると、ウェランド運河の必要性がいかに高かったか、ということがうかがえますね。

さらに、それよりも先の1825年には、ニューヨーク・ステート・バージ運河が開通しています。これも入試レベルでは必須ですが、その名の通りニューヨーク州を横断しています。ニューヨークからハドソン川を真北に進み、オールバニで西に方向を変えると、この運河につながります。最終地点はエリー湖です。

 

ヨーロッパから植民のために渡ってきた人たちは、ボストンの港から上陸して街を建設していきました。一方、セントローレンス川(海路)からオンタリオ湖に入って、中央平原を目指す人たちもいました。だから、この運河は、当時のアメリカの主要な2つの地域をつなげる重要な輸送路だったわけですね。だから開通年が早いわけです。南北戦争よりも前であることを知っておくことは、世界史選択の生徒にも、アメリカ史の勉強になりますね。

このように五大湖は古くから栄えてきたわけですが、となると必要なのは「資源」ということになりますね。それが、メサビの鉄とピッツバーグの石炭ということです。

五大湖の西端の近くにメサビ鉄山があります。ここの鉄鉱石の埋蔵量は世界屈指の量です。このメサビの鉄は、かつて赤鉄鉱というヘマタイトが採れていました。これは鉄の含有量が高くて品質のよいものでいした。けれども、その後あまり採れなくなってしまい、現在はタコナイトという、鉄分が30%程度の、かなり低品位のものを採掘しています。

一方、エリー湖の南方にはピッツバーグがあり、ここでも鉄鉱石を産出していますし、さらに近郊で石炭を産出することから、鉄鋼業が盛んでした。この石炭はアパラチア炭田の1つです。かつての街はスモッグでひどかったと言います。

このメサビとピッツバーグをつなげるのが、五大湖の水運ということです。鉄鉱石や石炭はどうしてもゴロゴロとかさばりますので、運搬は容易ではありません。そこで、五大湖を運河でつないで、そこを船で輸送したということになるわけです。

さて、冒頭のデトロイトですが、この水運をうまく利用してますね。ちょうど、どちらからでも資源が調達でできますから。こうして、五大湖沿岸の工業都市が栄えていったわけです。

ただし、1970年過ぎから、五大湖周辺の繁栄にかげりが出てくるのです。まず、メサビの鉄は、質のよい鉄鉱石がだんだん採れなくなってきたことで、採掘量が減りました。同時に、世界的に鉄鋼の需要が減少と、競争の激化が関係しています。1970年代は、日本では高度経済成長が一段落するころなのですが、先進国に続く、新興工業国が鉄鋼業に台頭してきた時期でもあるわけです。また、1973年のオイルショックは、世界経済を押し下げることにもつながりました。

ピッツバーグの方も、同じく1970年代から衰退して行きましたが、ここはやはり首都やニューヨークに地理的に近いこともあり、別の産業に転換して行きます。バイオテクノロジーなどのハイテク産業や教育産業、金融業などに経済の中心が移っていったわけです。

 

おっと、このへんは地理の学習内容でありながら、現代社会の背景や年号のオンパレードなので、ぜひとも現代の部分はしっかりと押さえておきたいところですね。

 

ここで一句

 

 貧血で タコは食べない タコナイト

 

ではでは